時代劇風 スペクタクル。

ムカシ ムカシ 。
とある藩の お城に。
少々わがままな。
「 若殿様が 」 おりましたトサ 。
~~~~~~時ワ 戦国~~~~~~~
ええいっ!!
毎日 毎日 !
城のなかに閉じ込められて!
退屈で退屈で仕方がないわ!
気が狂うてしまいそうじゃ!
たまに城下に出れる!
と喜ぶも。あにはからんや!
籠のなかに押し込められ!
恭しくこうべを垂れる者らに
ヤレ「 大儀じゃ。」
ヤレ「 祝着じゃ。」
と たいそう意味もない
殿様言葉を投げかけねばならぬときた!!
これを退屈の極み。と言わずして!
なんと申すというのじゃ!!
もう家臣どもの芥の如き
小言など聞き飽きたわっ!
誰ぞ! 余を楽しませる者はおらぬのか!
おお! そうじゃそうじゃ!
「 蒼井東十郎 は おらぬか!」
城内の者!
誰でもよいっ!!
「 東十郎を。 呼べ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
急遽 お呼びたてとの事。
足軽共への剣術指導を取りやめ
押っ取り刀にて
馳せ参じ仕りました。
「 いかがされました。若殿。」
来たか。
よいよい。もう面を上げよ。
なあ。東十郎 。
余は 暇なのじゃ。
毎日毎日 。
このたいそうな城に幽閉されて。な
幽閉などと・・・
滅多な事を仰るものではござりませぬ
若殿。
お言葉ではござりまするが
貴殿は我が藩の武将にあられまする
御大将 時坂右京太夫様の
たった一人のご子息 。
城下になどお出になられようものなら。
何処に燐藩の刺客が潜んでいるか
わかりませぬ。
万が一の事を鑑みて。の
若様の父君にあられます
御大将からの申し付けにござります故
何卒。ご容赦の程を。
ふんっ!!
刺客など返り討ちにしてくれるわっ!
幼少の頃 。
おぬしから教わった
剣術の覚えがあるからな!
余にだってな!
多少腕に自信はあるんじゃ!
そうでありますなぁ。
若の剣術には
きらりと光るものがございましたな。
東十郎 。
おぬしに稽古で勝った事は
た!っだの! 一度も無いがのう!
ひらりひらり。ふわりふわりと。
余の全力の剣を。
おぬしは子供でもあやすように
かわしてのけていた。
底知れぬ男じゃ。おぬしは。
「 そのような御言葉 。身に余りまする。」
おぬし。聞けば
あの天下一との誉れ高き
北辰一刀流の免許皆伝らしいの。
何故いままで このかた。
余に黙っていた?
「若が私にお聞きにならなかったからです。」
なるほどの。
まあよいわ。
それにのう。
最近 耳にしたのじゃ。
城内の家臣らが ひそひそ話しておるのを。
おぬし。
余と同い年くらいの頃は
城下一の暴れん坊だったと聞いたぞ。
我が藩で
一番怒らせてはならぬのは
おぬしだと。家臣らが噂しておったわ
ただの噂に御座いましょう。
とうの昔の事 。
すっかり忘れてしまい申した。
いまの私めは 。
御大将から若殿の教育係を命じられた
家老の筆頭のなかのひとりにござりまする。
「 のう。 東十郎 。 ひとつ聞く。」
「 なんに御座いましょう?」
余には。
何故。
友達。というものが おらんのじゃ?
「・・・と 友達。にございますか・・」
そうじゃ。 友達じゃ。
城下の民どもにはおるじゃろ。
男だろうがオナゴだろうが。
友達。という存在が。
一緒に剣を振るって稽古したり。
一緒に歌ったり。盆踊りに興じたり。
肩を組んだり 小突きあったり。
喧嘩したり。仲直りしたり。
そうゆうものなのであろう?
友達。とは。
何故 余には おらんのじゃ?
余だってそうゆう事がしたいんじゃ。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・さように御座いますか。
それはたいそう難儀と申しましょうか・・
「 何をもって難儀と申すか?東十郎。」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんと申しましょう・・
若殿と友達になろうなどという事は。
城下の者たちにとって。恐悦至極 。
たいへん畏れ多い。のでありましょう・・・
「 畏れ多いと。友達にはなれんのか?」
そ・・ そうですなぁ・・
そうだ。 若 。
若には。「 怖いもの」はございますか?
「 怖いものなど 無い。」
さようにございますか・・・
さすれば 少々
ご説明が難儀になるかと存じます。
待て。 もっとよく思いだしてみる。
んーーーーー 。
怖いもの。怖いもの・・・
父上は。怖いというより。
なにか大きくて。富士の霊峰のような・・
そういった想いであるしなぁ・・・
なんであろうのう・・・
怖いもの。とは・・・・
・・・う~~~ん・・・
・・・・・・・・・あ! あった!
あったぞ! 怖いものが!
あ!「 あぶら虫。」じゃ!
余はこの世でたったひとつ。
あの黒光りして高速で這いずりまわる。
あぶら虫だけは!
どうしても怖い!
近寄りがたい存在なんじゃ!!
さすれば。 若。
若と同い年くらいの者たちが。
若に近寄りがたい。というのは
若が あぶら虫に。
本能的に畏怖の念を懐くが如く。
たいへん 畏れる事 。なのかと存じます。
のう。 東十郎。
おぬし。
「余を あぶら虫と同義。」と 申すか?
・・そ。 そうではありませぬ。
「 畏れ。」というものが
どういった思いであるのかを説明いたす為。
若が畏れるものはなにか? と
お尋ね申した所存にござりまする。
それに対し。若が あぶら虫を挙げただけで
同義などとは。
滅相も御座いません。
若は。我が藩の。宝にござりまする
ふふ・・・
冗談じゃ。冗談 。
おぬしには胡乱なものは一切感じぬ。
わかっておるわ。
余が童の頃から。
わかっておる。
おぬしの余に対する想いは。
なあ。東十郎 。
ここからは。冗談ではない。
余の頼み。
聞いては くれぬか・・?
「 はい。 なんなりと。」
「 おぬし。余の友達になってはくれぬか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・それは。
如何に若殿の頼みであろうと
父君である御大将からの申し付けに背く行為。
かたじけのうござりまするが
たいへん難儀かと存じます。
「 おぬしも 余に畏れている。」
と 申すか・・?
・・・そうではござりませぬ・・!
私は・・・ 私は・・!!
東十郎 。 おぬし。
「 余の事を。どう おもっておる。」
若 。
いまから拙者が申しあげます事 。
たいへん身分不相応であるが故 。
一度だけに。御座います。
「 一度だけ。申しあげます。二度は申しませぬ」
もしそれが。
若の御心に触って憤慨されたとあれば。
切腹であろうと。なんであろうと。
お申し付けくだされ 。
「 申してみよ。」
「 我が子のように。想うております。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
のう。 東十郎 。
おぬしは余の願いに応えられぬ。
と 申したな 。
「 ハラを 斬れ。」と 余が命じたら。
「 見事 斬れる。」
と 申したな。
「 申しました。」
おぬし。 畏れぬ。 と申すか。
腹を斬る事 。
怖くない。と 申すか・・?
「 はい。 微塵も。」
ふふ。
あなや。天晴れ。
見上げた度胸じゃ。
北辰一刀流。免許皆伝の漢は
これほどまでの列強か・・・
東十郎 。
おぬしは
どんな劣勢に立たされた戦からも
戦況を覆して。
泥だらけにもかかわらず
実に涼しい貌で凱旋して帰ってくる。
無数の刀傷が体中に走っていようと。
いつも涼しい貌で城に凱旋して戻ってくる。
「 おぬし。痛くないのか? 斬られても?」
申し上げます。
刀で斬られて痛くない者など。
おそらく この世におりませぬ。
もし痛みを感じぬのであれば。
その者はもう。あの世にいる。かと。
痛みは。生きている事の証。
もし私が傍から見て
涼しそうな貌であるのなら。
今日も命が在る事に対する
「 感謝の念が。」
そのような貌にさせるのかと存じます。
ふふ。
どうも おぬしと話せば話すほど。
我がどんなに脆弱で
身分だけの ちっぽけな存在だと。
思わせられて ならぬ 。
のう。 東十郎 。
「 おぬしが畏れる事とは なんだ?」
わたくしめの 畏れる事は。
時坂右京太夫様の命に応えられぬ事。
若の教育半ばでお役御免。となる事。
戦で歴戦の戦友たちが命を落とす事。
これくらいに ござりまする。
「 東十郎 。おぬし。余を畏れるか?」
いいえ。 微塵も。
若に想う事は
先程 申し上げた通りにござりまする。
ただ。恐悦至極に存じますが故
二度は申しませぬ。
何卒、ご容赦くださりませ。
余に畏れも無い。畏怖の念も無い。
東十郎。
「 そう。申すのだな?」
「 畏怖など。 微塵も。」
「 ふふ。 かかったな。東十郎。」
「 ・・。 どういった事にありましょう?」
この城下で。
余を畏れぬ。
たったひとりの漢 。
畏れが無いと申すのであれば。
友達になれぬ所以は無いなぁ。
もう言い逃れは出来ぬぞ。
「 ・・うっ! わ! 若。それはでござるな・・」
ふふ。 良い良い。
おぬしの気質
知らぬ余ではない。
応えはいらぬ。
余が己の心で思っておれば良いのじゃ
ワレにもただひとり。
誰にも負けぬ友達がおると。
それで十分じゃ。
「・・・・・・・・若。」
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・のう。 東十郎。
おぼえておるか?
余が童の頃 。
城下の縁日の「 水飴が食いたい。」
と 喚き散らして。
おぬしに城から無理矢理
余を連れ出させたときのこと・・・
おぼえておりますとも。
若が。
縁日が始まるまでの 三日三晩 。
泣き止んでくれぬが故 。
ほとほと困り果てたのですぞ。
城を抜け出す為 。
若を背中におぶって
城のお堀を泳ぎましたらなぁ
あなや! 溺れるところでしたぞ!
ふふふ!
びしょびしょになった羽織りを着て。
おぬしと食うた「 水飴。」
格別な美味さであったなあ・・
あの「 城抜け騒ぎ。」が 。
若の父君の 右京太夫様の耳に入り。
呼び出しを喰ろうたときは 。
さすがに往生せねば。と
ハラ斬りのための脇指しを持って。
御大将さまの元へ向かいました。
「 して ? 御父上は。その時 なんと?」
「 東十郎 。 大儀である 。」
・・・・・と。
「 それで しまいだったのか ?」
また。機があれば。
我が子に。城下の日常を
見せてやってくれ。
ただ 。
あまり家臣や女中らに。
気付かれぬようにな。
・・と。申されておりました。
ふふふ! 御父上らしい。といえば
御父上らしいのう・・!
~~~~~~~~~~~~~~~~~
おや・・
もう日が暮れるのう。
剣術指導はまた明日にしろ。
のう。 東十郎。
今夜は余が良いと言うまで。
酒に付き合え。
これは頼みではない。
若殿の命令じゃ。
「 断れば。腹ものゾ。」
おお・・!
若も もう酒をやるお年頃になられたか・・!
最近だがな。 覚えた。
なかなか良いものだのう。酒は
とくに。日中
さんざっぱらと竹刀を振り回し
鍛錬したあとの酒は格別じゃ。
今日もな。
小うるさい女中・家臣らの目を盗んで。
やっておったんじゃ剣術の鍛錬をな。
北辰一刀流 免許皆伝のおぬしから
手解きを受けた我が剣術 。
いまでも徒や疎かにはしておらんぞ。
「 おお!それはそれは。精が出る事で。」
東十郎。
剣術稽古では。
いつも おぬしにコテンパンであったからな。
今夜は酒で勝負。と行こうではないか。
いざ。尋常に勝負じゃ!
「トウジュー兄ぃ。」
ふふふ。
若。
ややもすれば。
剣術より。
酒の強さ。のほうが
自信があるやも知れませぬぞ。
「 いざ。勝負じゃ。トウジュー兄ぃ!」
「 かかって来なさい。 ぼん。」
おお! なんと懐かしい!
そうじゃ!
ワレが童の頃のように!
「 ぼん。」と呼んでくれ!
今宵は無礼講ぞォ!!
はははははははははは!!!!!
いちど。 ヤッテミタカッタ
時代劇風。スペクタクル
デシタ 。
ジャマタ